「聞いてくれよ、シュナイダーが変なんだ!」
マーガスの悲痛な声が跳ね上がって、カルツは反射的にスピーカーに切り替えた。ロッカーの前に立っていた若林が振り返ったが、特に反応はない。
カルツもその点は同じ気持ちだった。
年に数回、こうしてマーガスから届くご注進。カルツにしてみても感想に変わりばえはない。そう、彼にとってはシュナイダーが変なのは通常のことだ。だからこその比類なき王者なのである――良く言えば。
「で、今度は何だって?」
「練習中にゴール前で何人か衝突事故起こして、伸びちまったヤツが出たんだ。大きな負傷者はなかったけど」
意識を失った者から順次運ばれて大騒ぎになったという。巻き込まれたシュナイダーは特にケガもなく、座り込んだままぼーっとしていたらしいが。
「ほう? ケガがなかったんなら問題ないじゃないか」
ゆっくりと近づきながら話に口をはさんだ若林だったが、話はそこで終わらなかった。
それが先週のこと、以来シュナイダーの様子がおかしいというのだ。
「はあ? ゴールセレブレーションを派手にやるって? あいつがか」
「想像できん」
若林の言葉は嘘ではない。それ以上に子供のころから10年以上一緒にいたカルツならなおさらだった。
「雄たけび一つ上げないあいつが? 腕振り回したり膝スライドしたり仲間と抱き合ったりしないだろ? ありえないって」
そもそもチームメイトだって近寄れる空気ではない。怖気づいてしまって離れたところで笑顔を向けるのがせいぜいだ。
「あれから練習試合とか、あと公式戦も1回あって――別の意味で俺たち毎回フリーズしてんだ」
それは確かに異常行動である。カルツと若林は怪訝な視線を合わせた。
「で? 具体的にはどうなってるんだ、そのセレブレーションとやらは」
「ええと、そのう」
急にマーガスの歯切れが悪くなった。電話では説明できないのか?
「ゴールを決めた敵陣から一気に自陣に駆け戻ってきて――」
実は事故の日、現場の大混乱で担架やストレッチャーが足りず右往左往があったのだ。
シュナイダーは意識があったもののケガの有無は確認できていなかったので、ゴール前にいたミューラーがその怪力で横抱きに運んだという。
「それが変にツボにはまったらしくて」
無表情なシュナイダーがお姫様抱っこしてもらうために、まっしぐらにミューラーのもとに駆け戻るのである。ミューラーもミューラーで世俗慣れしていない分、それが常識外れだとも思っていないらしい。
「ヒナの刷り込みだな」
「遅延行為でカード出されるぞ、そのうち」
「まあいずれ飽きるだろ、たぶん」
当てにならない彼らのコメントは、またもやマーガスの救いになることはなかった。
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