川べりに寝そべって、陽の光をまぶたの裏に感じながらまどろんでいると、その声が遠くから近づいた。
「ロベルトぉ!…」
片目を開いて見上げると、逆さに笑顔が頭上に現れる。
「やっぱりここだった。お待たせ」
「…ああ」
土手道を駆けてきたのだろう、弾んだ息のまま、缶ドリンクが目の前に突き出された。
「ガラナじゃないか」
「フフ、すごいでしょ」
翼はただニコニコする。
見ればちゃんとアンタルチカだ。缶は汗をかいている。俺は身を起こした。
「ガラナもいいが、酒にしてくれよ。どうせなら」
「もう、ロベルトったら」
自分ももう1本を開けながら、翼は俺の顔を覗き込んだ。
「どう? 懐かしい?」
「まあね」
ブラジルで飽きるほど飲んだ味だ。特別好きとは言わないが、馴染んでいるのは確かだし。
「でもどこで手に入れたんだ、こんなもの」
「へへー」
翼は俺を驚かせたのが嬉しかったらしい。
「実はね、静岡じゃ簡単に買えるんだ、お店は限られてるけど」
聞けばここ静岡にはブラジルからの移民が多く暮らしていて、彼らのための店もそれなりにあるのだそうだ。ブラジル系スーパーというわけだ。
「静岡だけじゃなくて、日本のどこでも買えるはずだよ? 北海道には国産ブランドのもあるんだって」
ブラジルのフルーツが原料なのにおもしろいね、と翼は笑う。
「そういえば、これ一緒に飲むのって初めてだね」
「そうかもな」
飲みながら土手から見渡していると、河川敷のグラウンドでは小中学生たちがめいめい賑やかにサッカーボールを蹴っている。
「俺もあんなして、ずっとやってきたなあ」
「今さら?」
ガキの頃から、プロになって代表にもなって、そして…。
「勝ったり負けたり、飽きずにずっと」
翼は黙っていた。俺の言葉に考え込むようにして、子供たちが駆け回っているのをただ見守っている。
「そうだよね」
そうしてやがて小さく息をつく気配があった。
「俺もそうだよ。勝ったり負けたり、ほんとにずっと」
ちらりと見ると、翼の顔にはわずかに笑みがある。
「飽きるわけないよ。勝ち負けじゃなく楽しいから続けるんたから」
「翼…」
思わず身を起こしかけると、そこにいきなりボールが飛び込んできた。俺たちの頭上を越えて土手道でバウンドし、転がってくる。そして伸ばした翼の手に収まった。
「ごめんなさぁい、おじさん、こっちにくださあい!」
ふふふ、おじさんだって。蹴る?」
俺は足を踏ん張った。ボールは不安定に宙高く舞い上がった。同時に蹴ったがクセの差はしかたない。翼が笑い崩れた。
「勝ったり負けたり、ずっと楽しいよね」
「楽しいもんか、チクショウ!」
立ったまま拳を握る。
「まあまあ、勝っても負けても楽しいのは同じだよ? ずっとね。さ、乾杯しよ」
ガラナは炭酸に弾けた。
end
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