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 ふわふわと。
 漂う心地。
 俺は不幸だったのかな。いや違う。
 不確かな場所で不確かに立って、あたりを見回す。残った酒瓶をぐびぐびと干している若島津が、霞む視界に浮かんでいる。
「気持ちいい。うん、とても」
 俺はキーパーでいること、悲しいなんて思ったこと、ない。不幸でも、ない。断じて。
 だから、だから俺は…。
 手の中のボールをじっと見る。ペナルティスポットにそっと置き、息を吸う。
 きっと。
「行けっ! ボール」
 いつもよりさらに頼りないキックで頼りなく飛ぶボール。
 ふわふわと。宙をふわふわと横切って、ボールはゴールに吸い込まれた。

「やったあ!」
 思わず跳び上がる。ガッツポーズでジャンプして、着地したそこは。
「あれっ、若島津?」
 そこは夢の外だった。しんとした医務室。そのベッドに森崎はいた。
 はっと見れば脇で若島津がベッドに突っ伏している。
 名を呼ばれて顔を上げた若島津は、一瞬の間を置いて森崎を見、ニッと笑った。
「決めたな、森崎」
「そ、それ?」
 若島津の手にあった一升瓶。すっかり空になって。
「夢の中で飲んだ酒が、なくなってる…?」
「まあな」
 謎の返事をしておいて若島津はベッドにいきなりもぞもぞと潜り込んだ。森崎のいる隣へ。
「それより俺も疲れた。もいっかい寝る」
「ちょ、ちょっと若島津?」
 うろたえる森崎はおかまいなしだ。
「れ、練習は?」
「いい。どうせサボりついでだ」
 上掛けに埋もれてぐーぐーといびきまでかきはじめる。ただのヨッパライか?
「で、でも、叱られる……」
 そこへガチャッとドアの音。
「若島津はここかい?」
 入ってきたのは3人。先頭にいたのは三杉だった。
「おや? お取り込み中だったのか」
 もしもし?
「わーい!」
 森崎が目覚めたことに喜んではしゃぐ翼。そして。
「もりさき~」
 その2人を押しのけて迫り来る猛獣。
「ひーっ」 
 雨降って地固まる。わけもないか。


end
            (元ネタ:『小さなお茶会4巻』猫十字社)
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