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「じゃあな!」 
 武蔵高のメンバーとは帰り道のショッピングセンターで別れた。
 今日は三杉はいない。協会の呼び出しだ。だから一人で電車駅に向かう。
「あれ?」
 松山は路上で足を止めた。食べかけだったタイヤキの最後のひとかけを口に押し込んで。
「おまえ、どうした。迷子か」
 歩道の真ん中に、2、3才くらいの幼児がぽかんと一人立っていた。周囲には誰もいない。
「かーちゃんは? 誰かいないのか」
 とりあえず通行する自転車の群れだけでも避けないと。松山はその子の手をとって歩道の脇に寄った。
「こんな子が一人ってわけねえよなあ。弱ったぞ」
「あらっ、松山くん」
 そこに現われたのは青葉弥生だった。こっちも学校帰りだったが、制服のない私立女子高なので完全私服である。
「どうしたの、その子?」
 迷子かも、と聞いて弥生は松山に子供を連れさせてショッピングセンターのインフォメーションに飛び込んだ。
 呼び出しを頼んで待つ。通りがかった中年の主婦が子供の手を引く松山と弥生を見て笑顔を見せた。
「まあ、かわいいパパとママね」
「えっ!」 
 松山はわたわたと手を振り回す。
「ちっ違います! これは迷子で…」
「うふふ、冗談よ。彼女さんでしょ。偉いわね」
 インフォメーションに若いお母さんが幼稚園児を連れて駆け込んできたのを見やって、おばさんは笑った。
「あ、わ、かっ彼女でもないですからっ――おと、義弟の彼女ですっ!」
 顔が真っ赤になる。ぷっと弥生が吹き出した。もうおばさんは笑いながら立ち去っていた。
「松山くんったら、そんなに必死にならなくっても」
 おとうと、と何度も繰り返して笑い転げる。幼児は無事に母親に引き渡され、二人は何度も礼を言われた。
「義弟、だったのね? じゃあ美子ちゃんは私の義姉かあ」
「おわっ…」
 弥生には大受けだったが、松山の動揺は収まらなかった。さらに、さらに赤くなる。
「今度電話で言わなくっちゃ、おねえさん、って」
「言うな、言うな――っ」
 なんで三杉のいない時に限ってこんなことになるんだ――。と松山はへこみまくった。



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