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キャプテン翼二次創作ファンサイト CAPTAIN TSUBASA FANFIC WEBSITE
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「ちぇーっ、豪腕ストリーム、見たかったなあ」
 草むらに座り込んで、石崎は空を見上げていた。既に暮れ始めている空はもう1番星も2番星も出ていた。
「全部母ちゃんのせいだ」
 多分に八つ当たりが入る。4年になって最初のテストの点が悪すぎ、と叱られ、いつも楽しみにしているテレビのアニメ番組を禁止されてしまった。
 それならと思って、自転車を走らせて祖母の家に向かったのだったが、近道に選んだ山道が石ころだらけで、その石の一つにタイヤをとられて道沿いの斜面に転げ落ちてしまったのだ。
 もともと人通りなどほぼないあたりだから、通りかかる人が気づいてくれる望みもない。足をまんまとひねったのか、痛くて急斜面などよじ登れない。
 やむなく、誰か気づいてくれるか足がよくなるか、一人で待つことにする。
「あとで母ちゃんにどやされそうだな」
 逃げたことに気づいてるだろうが、どうせ祖母ちゃんちだろうと心配もしてなさそうだ。夜は店が忙しくて末っ子のことなど忘れてるだろう。
 しかし空腹はたまらない。ポケットをさぐったらアメ玉が一つ出てきたので気休めに口に入れる。強がっていたが暗くなってすっかりものさびしくなってしまった。
「誰? 誰かいんのか?」
 少し離れたところで物音がした。耳を澄ませるが反応はない。石崎の背筋が凍った。
「おい、返事しろよ」
 草むらががさごそと揺れる。そして耳が出た。
「え、犬?」
 飛び出してきたのは一匹の犬だった。元気よくはっはっと息を切らせている。しかも知っている犬ではないか。
「えっ、ジョン? おまえジョンじゃねーか」
 それは若林が飼っているジョンだった。声をかけるとぺろぺろと手を舐めた。
「なんでこんなとこにいんだ?」
 しかもひとりで。誰か一緒かと見回したが誰もいる様子はない。
 抱き寄せるとジョンは嫌がりもしないで石崎に寄り添った。急に自分が一人で心細かったことに気づく。ぷんと犬の臭いがした。
「おまえ、ストリームの犬のラッシュみたいだな。顔は似てねーけどよ」
 それはそうだ。ヒーローはシェパードを相棒にしている。時には敵を襲って倒す豪犬だ。しかし石崎にはとてつもなく頼もしい連れだった。
 座って首を抱いていると、ちょうど肩を組んでいるような具合になった。
「あったけえ。おまえあったけえな」
 空を見上げると一番星はとっくに山の稜線に沈み、2番星が空高く上がっていた。
「あれ、木星だぜ。こうちゃんが教えてくれたんだ」
 こうちゃんとは中学生のイトコだ。
「衛星が見えたらいいなあ。ガリレオの4つだけでも」
 肉眼では無理だ。ガリレオも当時の望遠鏡でやっと見つけたのだから。
「知ってっか? あれ4つとも木星の愛人なんだぜ。しかも1人はオトコ」
 意味はよくわからないが石崎はニヤニヤする。ジョンがおとなしく聞いてくれているからだ。全部イトコの受け売りだがジョンは文句を言わない。
 すっかり暗くなったが石崎はジョンと座り続けた。
「おまえがラッシュだったらなあ。敵にキック決めたり、走ってクルマに追いついたりできるのに」
 でもジョンはこうしてそばにいてくれる。それが一番の能力に違いなかった。ポケットに油性ペンがあった。いつも豪腕ストリームの似顔絵を描くために持ち歩いているものだった。
「こう、こうすればラッシュっぽくなるかな」
 ジョンの顔に強そうな眉を描いてみる。うまくいかない。かえって笑える顔になってしまった。
「ジョン、俺を守ってくれるよな。空を飛んで、どこまででも行ってくれるよな」
 石崎はいつしか夢を見ていた。ジョンが空を駆けていた。
「がんばれ」
 突然知らない声がして石崎は目を見開いた。子供の声だった。
「今なんか言ったか? おまえがしゃべったのか?」
 ジョンをじっと見るがもう何も聞こえない。ジョンはじっと動かずそんな石崎を見つめていた。



「馬鹿野郎。ひとんちで遭難しやがって」
 翌朝、母親に大目玉を食らったのはもちろん、若林にも辛辣な言葉をもらった。
「あそこはうちの裏庭だ。ジョンが散歩してたのは当たり前だ」
 石崎が眠ってしまったのでジョンは自主的に家に戻り、その顔の眉を見た使用人が庭を探して夜中に犯人を保護した、というわけだった。
「でも、がんばれって話したんだぜ」
「あれは兄貴の声だ」
 迷子の時にそなえて首輪に声を出せる装置をつけてあったのだという。兄たちはそのまま親に連れられて外国に引っ越していったので電池は切れ、はずみで時々鳴るらしいのだ。
「いや、そんなはずねえ。確かにジョンは俺を励ましてくれた」
 そして空を飛び、石崎を助けてくれたのだ。
 石崎はその後もたびたびジョンに眉を描いた。彼にとってヒーローはストリームではなくラッシュになっていた。
「なあ、そうだよな、ジョン」
 ジョンは変わらず穏やかに石崎を見つめるのだった。



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